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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
勿論見る人が見れば直ぐ分ることであるとも書いてよこした。彼女はまた、水虫のようなものを両手に煩ってとかく台所の手伝いも出来かねていると書いてよこした。相変らず髪の毛が抜けて心細いというようなことまで書いてよこした。こうした節子の手紙を読む度に岸本は嘆息してしまって、所詮国へは帰れないという心を深くした。
旅の空にあって岸本が送ったり迎えたりする同胞も少くはなかった。好い季節につれて、旅から旅へ動こうとする人達の消息を聞くことも多くなった。以太利の旅行を終えて岸本の宿へ土産話を置いて行った人には京都大学の考古学専攻の学士がある。これから以太利へ向おうとして心仕度をしているという便りを独逸からくれた人には美術史専攻の慶応の留学生がある。セエヌの河岸にある部屋を去って近く帰朝の途に上ろうとする美術学校の助教授もあり、西伯利亜廻りで新たに巴里に着いた二人の画家もあった。
「岸本君が巴里に来られたことを僕はモスコウの方で知りました」
こう言って旧い馴染の顔を岸本の下宿へ見せた一人の客もあった。この客は一二カ月を巴里に送ろうとして来た人であった。
岡が画室の方から来て部屋に落合ってからは、気の置けないもの同志の旅の話が始まった。