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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

七十七

何時逢って見ても若々しいこの客のような人を異郷の客舎で迎えるということすら、岸本にはめずらしかった。よく身についた紺色の背広の軽々とした旅らしい服装も一層この人を若くして見せた。

「岸本君は巴里へ来て遊びもしないという評判じゃ有りませんか。そんなにしていて君は寂しか有りませんか」

と客が言って笑った。

「これで岸本さんも万更遊ぶことが嫌いな方じゃないんだね」と岡は客の話を引取って、「人の行くところへは何処へでも行くし、皆で集って話そうじゃないかなんて場合に、徹夜の発起人は何時でも岸本さんだ。『色地蔵』だなんて岸本さんには綽名までついてるから可笑しい。恋の取持なぞは、これで悦んでする方なんだね。そのくせ自分では眺めてさえいれば可い人だ」

「だけれど、君、旅に来たからと言って、何もそんなに特別な心持に成らなくても可いじゃないか。国に居る時と同じ心持では暮せないものかねえ」と岸本が言出した。

七十七

一切のものの競い合う青春が過ぎ去るように、さすがに若々しく見える客も時の力を拒みかねるという風で、さまざまな旅の話に耽ったが、岡と一緒にその人が出て行った後まで種々な心持を岸本の胸に残した。