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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

と曾て老婦人が彼に言ったことを思い出した。事情に疎い外国の婦人の身をもって、果して適当な配偶者を異郷に見出すことが出来たであろうか、こうした掛念がありありと老婦人の顔に読まれた。

「この滝さんは巴里に遊学していらしったことも有るそうです。手紙の中にそう書いてあります」

と細君が言って、マドマゼエルの手紙をひろい読みして聞かせる中に、岸本に取っては親しい東京の番町の友人の名が出て来た。番町の友人の紹介で、マドマゼエルがその美術家を知ったらしいことも分って来た。

「日本で結婚するなんて、儀式はどうするんでしょう、宗教はどうするんでしょう――マドマゼエルも唯一人でさぞ困ることでしょうね」

と細君が言えば、老婦人もその尾に附いて、

「可哀そうな娘」

とつぶやいた。

「とにかく、日本の若い美術家も多勢巴里に来ていることですし、私がその滝さんのことを訊いて進げましょう。マドマゼエルだってしっかりした人ですから、下手な事をする気遣いはありませんよ」

こう岸本は老婦人や細君を言い慰めた。

間もなく主人と前後して、日本の弁護士がそこへ入って来た。老婦人はその弁護士にも滝という人の事を尋ねた。