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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
諸国から巴里に集って来る多くの旅人を相手に生計を営んでいるような人達の間に醸される空気が、非常に慇懃なもので険しく冷いものを包んでいるような空気が、慣れては知らずにいるほど職業的に成ってしまったような空気が、実に濃く彼の身を囲繞いていることを知って来た。仏蘭西人の家庭を見て来た眼で自分の下宿を見る度に、何時でも彼は嘆息してしまった。
岸本の下宿には高瀬という京都大学の助教授が独逸の方から来て泊っていた。この人の部屋は岸本の部屋と壁一重隔てた直ぐ隣りにあった。窓一つあるその部屋へ行って見ると、高いプラタアヌの並木の枝が岸本の部屋で見るよりも近く窓際に延びて来ていて、濃い葉の緑は早や七月の来たことを語っていた。
「千村君の居た宿屋が見えますね」
と岸本は思出したように言って、青々とした葉裏から透けて見える向うの旅館の建築物を眺めた。高瀬を岸本のところへ紹介してよこしたのも同じ大学の教授であった、岸本に取ってはこの下宿の食堂でしばらく食事だけを共にした千村であった。
「千村君も、よくそれでもあんな宿屋に辛抱したと思いますよ」と岸本が言った。「千村君が私にそう言いましたっけ。