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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
高瀬は独逸の方で見たり聞いたりしたさまざまな旅行者の話を巴里へ持って来た。驚くべく激しい懐郷病に罹った同胞の話なぞも高瀬の口から出て来た。ある留学生は高い窓から飛んで死んだ。ある人は極度のヒステリックな状態に堕ちた。その人は親切と物数寄とを同時に兼ねたような同胞の連に引立てられて、旅人に身をまかせることを糊口とするような独逸の女を見に誘われて行った。突然その人は賤しい女を見て泣出したという。こんな話を高瀬から聞いた時にも、岸本は笑えなかった。
「酷いものですな」と岸本が言った。「巴里にあるわれわれの位置は、丁度東京の神田あたりにある支那の留学生の位置ですね。よく私はそんなことを思いますよ。これでは懐郷病にも罹る筈だと思いますよ。今になって考えると、あんなに支那の留学生なぞを冷遇するのは間違っていましたね」
「神田辺を歩いてる時分にはそうも思いませんでしたがなあ。欧羅巴へ来て見てそれが解りました」と高瀬も言った。
「あの連中だって支那の方では皆相当なところから来てる青年なんでしょう。その人達が旅人扱いにされて、相応な金をつかって、しかもみじめな思いをするかと思うと、実際気の毒になりますね。