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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
香華を具えた聖母マリアの像がその辻堂の中に祠ってある。体縮み脊髄の跼った老婆が堂の前で細長い蝋燭を売っている。その蝋燭の日中に並び点る火影には、黒い着物のまま石段の上にひざまずいて、戦地にある人のために無事を祈ろうとするような年若な女も居た。
従軍の志望を果さなかった岸本はこのリモオジュの町はずれへ来てから、巴里の方で見聞した開戦当時の光景や、在留する同胞の消息や、牧野等と一緒にあの都を立退くまでの籠城の日記とも言うべきものを書いて故国に居て心配する人達のために報告を送ろうとした。時々彼は筆を措いて家の周囲を歩き廻った。梨、桃は既に熟し林檎の実もまさに熟しかけている野菜畠の間を歩いても、紅い薔薇や白い夾竹桃の花のさかんに香気を放つ石垣の側を歩いても、あるいはこのあたりに多い羊の群の飼われる牧場の方へ歩き廻りに行っても、彼は旅らしい心地を味うに事を欠かなかった。そういう折には彼はよく主婦の甥子に当るエドワアルをも伴った。
「ムッシュウなんて彼のことを御呼びに成らないで、エドワアルと呼捨になすって下さい。あれはまだほんの子供ですから」
と主婦は十六ばかりになる少年を前に置いて言ったが、牧野も岸本も相変らず「ムッシュウ、ムッシュウ」