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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

百一

「お出。丁度あなた方と同い年ぐらいな子供を小父さんも国の方に残して置いて来ました。この小父さんはそんなに可恐いものでは有りませんよ」

こう岸本は言って、それから三人の小娘に歌を所望した。パトアと称える方言で出来た小唄のあることを彼は宿の主婦からも聞き、少年のエドワアルからも聞いていた。この岸本の所望は歌好きな小娘達を悦ばせた。遠く泉太や繁から離れて来ている旅の空で、無邪気な子供の口唇から仏蘭西の田舎の俗謡を聞いた時は、思わず岸本は涙が迫った。

百一

うちしめった秋らしい空気の中を岸本はバビロン新道の方へ引返して行った。丁度宿の前あたりで野外の画作を終って帰って来る牧野と一緒に成った。少年のエドワアルも牧野の代りに油絵具の箱なぞを肩に掛け、町はずれの国道の方から連立って帰って来た。

「復た好い画が一枚出来ましたよ」

エドワアルはそれを岸本に言って見せ、入口の庭にある葡萄棚の下あたりを歩いている主婦にも言って見せた。

「リモオジュのお土産が沢山お出来に成りますね。ほんとに牧野さんのはずんずん描いておしまいなさる」

と主婦が庭に居て言うと、主婦の姉さんも台所の窓から顔を出して年老いた婦人らしく皆の話すところを聞いていた。