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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

百二十一

岸本は異郷の土となるつもりで国を出て来た自分の決心が到底行われ難いことを感じて来た。国には彼を待つ頼りの無い子供等があった。彼は、あだかも冷く厳かな運命の前に首を垂れる人のようにして、こうした一生の岐路に立たせられるよりは寧ろ与えられた生命を返したいとまで嘆いた。彼は亡き父の前に自分を持って行って、「この生命を取って下さい」とも祈った。

百二十一

「旅人よ、足をとどめよ。お前は何をそんなに急ぐのだ。何処へ行くのだ。何故お前の眼はそんなに光るのだ。何故お前はそんなに物を捜してばかりいるのだ。何故お前はそんなに齷齪として歩いているのだ。

――旅人よ。お前はこの国を見ようとしてあの星の光る東の方から遙々とやって来たのか。この国にあるものもお前の心を満すには足りないのか。

――旅人よ。夕方が来た。何をお前は涙ぐむのだ。お前の穿き慣れない靴が重いのか。この夕方が重いのか。それとも明日の夕方が苦しいのか。

――旅人よ。何故お前は小鳥のように震えているのだ。仮令お前の生命が長い長い恐怖の連続であろうとも、何故もっと無邪気な心を有たないのだ。

――旅人よ。足をとどめよ。