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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

ッて」

と牧野が答えて、自分の家の方へでも帰って行くように画室のある横町の方へ岸本を誘って行った。モン・パルナッスの停車場の裏側からその辺の並木のある通りへかけては、岸本に取っても通い慣れた道だ。巴里を囲繞く城塞の方に近いだけ、いくらか場末の感じもするが、それだけまた気が置けない。よく岸本が牧野の許へ自炊の日本飯を呼ばれに行って、葱なぞを買いに出た野菜の店もその通りに見える。そこまで行くと画室も近かった。

岡や小竹はビイルを置いた机を囲みながら牧野の帰りを待っていた。

「や。どうもお使御苦労さま」と小竹は牧野の方を見た。

「牧野、岸本さんも来たから、一緒に一ぱい遣らんか」と岡も飲みさしたコップを前に置いて言った。

「ああ」

牧野は主人役と女房役とを兼ねたという風で、何か款待顔に画室の隅でゴトゴト音をさせていた。この光景を見たばかりでも岸本には「巴里村」の気分が浮んで来た。彼は岡と差向いに腰掛けた。岡は言葉も少かった。癖のように力を入れた肩と熱意の溢れた額とに物を言わせ、小竹や岸本のためにビイルを注いだ。あだかも行く人を送るために互に盃を挙げようとするかのように。