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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

それよりも彼はこうした巴里の状況が電報で伝えられて、遠く国の方に居る親戚や知人を心配させることを気遣った。

岸本は旅の窓で、自分を待暮している泉太や繁のことを思い、義雄兄宛に知らせてやった帰国の時が子供等の耳に入る日のことを想って見た。それから、もう一度あの不幸な節子を見る日の来ることをも想って見た。それを考えると思わず深い溜息が出た。

眼前の戦争から、岸本はその中に動いているいろいろな人の心を読むように成った。丁度あの「アンナ・カレニナ」の終に書いてあるヴロンスキイの出発のようにして、進んで戦地に赴き、自ら救おうとする若い仏蘭西人のあることを彼は想像するに難くなかった。戦争を遊戯視し、まるで串談でも為に行く人のようにして親しい家族や友人に停車場まで見送られたというブロッスの教授の子息さんのことも彼は聞いて知っていた。その心を思うと、実に可傷しかった。死の中から持来す回生の力――それは彼の周囲にある人達の願いであるばかりでなく、また彼自身の熱い望みであった。春が待たれた。

『寝覚』附記

「寝覚」は、『新生』の改題。

こんな悲哀と苦悩との書ともいうべきものを、今更読者諸君におくるということすら気がひける。