轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

七

これ以上のことは岸本には言えなかった。

さかんな若葉の緑が何時の間にか古めかしく黒ずんだ石造の町々の間へ青々とした生気をそそぎ入れるようにやって来た。岸本は独りで旅館を出て、大学の建築物の側をある並木街へと取り、オステルリッツの橋の畔まで歩いて行った。すこし曇った日で、四月らしい明るい日あたりを見ることは出来なかったけれども、それがセエヌ河に近く行って見る最終の時であろうと思われた。岸本が初めて巴里に入ったのは足掛四年前の四月であったから、丁度巴里を発つ前になってその時の若葉の記憶が復た彼の心に帰って来た。彼は今、石橋の下の方を渦巻き流れて行く清いセエヌの水を見る眼で、遅くも二月か二月半ばかりの後にはあの旧い馴染の隅田川を見ることが出来るかと考えた時は、まるで嘘のような気がした。

七

セエヌの河岸の中でも、オステルリッツの橋の畔から古いノオトル・ダムの寺院の見える中の島あたりへかけては岸本の好きな場所で、過ぐる三年の月日の間、彼はよくその河岸へ旅の憂さを忘れに来た。故郷なしには生きられないほど国の方にある一切のものの恋しかった時。一日二日の絶食を思うほど旅費も乏しく心もうら悲しかった時。