轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
自分の罪過そのものが何処から出すともなく出してよこす暗い手だ。
岸本はもう一度その手を出し直して見た。誰にも知れないように自己の罪迹を葬ろうとしているような人間のはかなさをよく知るものでなければ、どうしてそんな手のあることを感じ得られよう。それは押頂いても足りないほど感謝すべき手だ。しかし掛引の強い手だ。自分の弱点を握っているような手だ。岸本はつくづく自分の手を眺めて、非常に暗い気持がした。
「姉さん、私も帰って来たものですし、今日からこの家は私にやらせて下さい」
と岸本は嫂の居る部屋の方へ行ってそれを言った。まだ旅行免状なぞのそっくり入れてある紙入から当座の小遣を出して嫂の手に渡した。
同じ船で帰国した牧野から手紙で約束のあった日に、岸本は横浜の税関まで残りの荷物を受取りに行って来た。神戸から横浜の方に廻った馴染の船はまだそこに碇泊中で、埠頭に横たわる汽船の側面や黒い大きな煙筒は一航海の間の種々様々な出来事を語っていた。岸本はその税関の横手からもう一度青い海をも近く望んで来た。
遠く国を目ざして帰って来た岸本の心――その心は彼に取って失うことの出来ない大切なものであった。