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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

という意味を通わせた。

節子はいそいそと支度した。子供等が急き立てる中で新しい白足袋なぞを穿いて、一番後れて家を出た。

「次郎ちゃんが見てるとまた喧しい、出掛ける人はさっさと出掛けとくれ」

という嫂の声を聞捨てながら、三人の子供は歓呼を揚げて真先に駆け出して行った。岸本は物の半町も子供と一緒に歩いたころ、後から薄色の洋傘を手にしながらやって来る節子を待った。外出した途中でよく脳貧血を引起すという節子のことが何よりも彼には気掛りであった。

「節ちゃん、今日は大丈夫かね」

岸本が尋ねた。

「ええ、大丈夫でしょう」

こう答える節子の声はつつましやかであった。

「お前の着物も何も皆お蔵へ預けてあるなんて――なかなか好いのがあるじゃないか、そんなのが有れば沢山じゃないか」

「好いにも悪いにも、これッきりなんですもの」

と節子はすこし顔を紅めた。彼女は何事も思うに任せぬという風で、手にした女持の洋傘のすこし色の褪せたのをひろげて翳した。

旅から帰った叔父に随いて歩くようなことは、節子に取ってそれが初めての時であった。何時晴れるともなく彼女の低気圧も晴れて行った後で、あれほど岸本の心を刺戟した彼女の憂鬱が何処にその痕迹を留めているかと思われるほど、その日は冴え冴えとした眼付をしていた。