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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

四十二

じっと頭を垂れて考え沈んでしまったような彼女の様子は食卓の周囲までも不愉快にした。

四十二

「節ちゃん、お前はどうしたんだねえ」

ある日、岸本はうち萎れた節子の前に近く行って立った。ややもすれば深い失望にでも堕ちて行こうとする彼女の憂い沈んだ様子は、岸本には観ていられなくなって来た。彼は以前に節子をなだめたと同じようにして、復た彼女をなだめようとした。すると節子はすこし顔色を変えながら繊弱い女の力で岸本の胸のあたりを突き退けた。

こうした節子の低気圧も、しかし以前ほどは続かなかった。激しいだけ、それだけ短かった。その後には以前にも勝る親しみをもって、一層岸本を力にするように成った。

「節ちゃんも好いけれど、何かこう低気圧でも来るように時々黙り込んでしまうには閉口する」

岸本はそれを食事の折に言出して兄や嫂の前で笑ったこともある。節子はまた皆の前でそう言われても別に悪い顔も見せないほど、元気づいた。

黙し勝ちな節子は一度、勝手につづいた小部屋の戸棚をあけて、その奥に蔵ってある彼女の手箱を岸本に取出して見せた。手箱と言っても、万事不自由な彼女は菓子の空箱で事を足していた。