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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

嫂と節子とは二人の子供を引連れ、門に出て見送る隣近所の人達にも挨拶して、その寒い日に出掛けた。岸本は義雄兄の東京に居ないことを考えて、女子供ばかりで谷中の方に向おうとする人達の後姿が見えなくなるまでも家の外に立ちつくした。

「何だか急に家の内が寂しくなりましたね」

と岸本は祖母さんに言って、嫂達を送出した後の部屋々々を歩いて見た。

「祖母さん、この長火鉢の置いてあるところをあなたの部屋としましょう。今に久米さんも来てくれましょうから、あの人には隣の部屋の方を宛行いましょう」

と復た岸本が言った。久米は岸本のことを「先生、先生」と言って園子がまだ達者でいる時分から岸本の家の事情をよく知っている婦人であった。その人も勉強かたがたしばらく岸本の家を助けに来てくれることに成った。彼が新たに雇い入れた女中も矢張久米の世話であった。

こうして岸本は祖母さんを借り、久米を借り、兄の家族と分離した後の簡易な生活を初めて見た。嫂達が別れて行った翌々日、岸本は節子からの手紙を受取って、それを祖母さんにも読んで聞かせた。静かな雨の音を聞きながら谷中の家の二階の三畳からこの御便りをすると節子は書いてよこした。