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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
七十
それほど彼の言うことは自分の耳にさえ嫌味に皮肉に聞えた。
「そんなら、これから探しましょうかね――せいぜい若い人でも」
と節子は戯れるように言った後で苦笑いに紛らわした。彼女はもうこんな話を避けたいという様子をした。
七十
解けかかって来たようでもまだ解けないのは堅く結ばれた節子の口であった。「ほんとうに何でもお話することの出来る時が来ました」と手紙では言ってよこしても、実際の節子はまだ言えない沈黙で言おうとする言葉に更える場合の方が多かった。その節子と対い合っているうちに、家まで来る途中で彼女の言出した言葉が、「私はもう男に成りました」と彼女の言った言葉が、岸本の気に掛っていた。
「先刻お前の途中で言ったことサ――俺はあれを思い出した。お前も苦しんで考えてると見えるね」
と言って岸本は肉のくるしみから出発した二人の関係をそこまで持って行こうとしているような節子の顔を見まもった。それほど懺悔の気分で、若い女のさかりの年頃を過そうとする彼女の思いつめた心が可哀そうに成って来た。
「なにもそんなに無理に男と言わなくても可いじゃないか。女でも可いじゃないか。大きな悟りの心を想って御覧、もし魂を浄くすることが出来るものなら、肉を浄くすることも出来ようじゃないか――」