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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

どうして言えようと考えるほど、それほど女というものの考え方なぞが崩れて行った時でも、冷然として自己の破壊に対する傷しい観察者の運命に想い到った時でも、猶彼はデカダンとして自分を考えたくないと思っていた。彼は梟のように眼ばかりを光らせて寂寞と悲痛の底に震えてはいられなかった。それを自分の運命の究極とはどうしても考えたくなかった。「死」を水先案内と呼びかけた人のような熱意を振い興して、この人生の航海に何かもっと新しいものを探り求めずにはいられなかった。

旅行記の一部を書き始めて見ると、あの旅に出る頃のいろいろな出来事の記憶や、いろいろな心の経験の記憶が、後からそれを辿って見たいろいろな心持と一緒に成って岸本の胸に帰って来た。ああいう淀み果てた生活を押し進めて行ったら、仮令節子のことが起って来なくとも、早晩海の外へでも逃れて行くの外はなかったろうと想って見た。彼の堕ちて行ったデカダンスとは、中野の友人の言うような「無為」の陥穽のそれでもなく、寧ろ結局狂人にでも成って終を告げるより外に仕方のないようなそんな憂鬱な性質のものであった。彼はそんなことを人からも言われ、自分でもよくそんなことを考えて見たことを思い出した。