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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
彼の恐れるように成って行ったのは何よりも「死」であった。それが三人の女の児を先立てたことに胚胎したことを思い出した。過去を通して、あの頃ほど「死」が彼の胸を往来したことはなかったが、それがもう破滅に近い暗示のように考えられたことを思い出した。彼が冷い壁をじっと見つめたぎり、人と口をきくことも二階から降りることさえも厭わしく思うほど動けなくなってしまった時は、「死」がそろそろ自分の身体にまで上りかけて来たかと恐ろしく考えたことを思出した。そうした心持で、頽廃した生活の終の幕に近づいて行ったことを思出した。節子を中心にして起って来た強い嵐は過去の生涯の中での一つのキャタストロオフであったように見えて来た。
最早草木の活きかえるような季節が岸本の眼前にめぐって来ていた。
春らしい雪が来て庭を埋めたと思うと、一晩のうちにそれが溶けて行って、その後には余計に草の芽を見るように成った。何時来るか何時来るかと思って岸本の待侘びていたような春は、漸く彼の身にも近づいて来たかと思わせた。彼は思い出の深い心をもってこの季節を迎えるものが自分ばかりでないことを思い、節子が最近に来て置いて行った小さな手帳をあけて見た。