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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
九十一
「節ちゃん、お前は一人でそうしていて、ほんとに寂しかないのかい」
「一人じゃ無いじゃありませんか――二人じゃ有りませんか」
この節子の答えは岸本の耳に深く響いた。その時、彼は黒い珠数の掛った自分の胸に思わず彼女を押当てた。
「ああ――可愛い」
深い溜息でも吐くように、しかも極めて熱心に彼はそれを言った。
九十一
二鉢の朝顔を残して置いて節子姉弟はその日の夕方に谷中へ帰って行った。翌朝も、翌々朝も、節子の置いて行った朝顔が岸本の部屋の縁先で咲いた。
「私ね、嬉しくて嬉しくて仕方がないの。だって――」
こんな隔ての無い調子で書き出してある節子の手紙が八月の初に岸本の手に届いた。彼女は家へ帰ってから書きかけて置いたものだと言って、短い、しかし心を籠めた便りを送ってよこした。先日伺った日の前の晩は自分も何度となく眼をさましてよく眠られなかったと書いてよこした。一週間経って、もう一週間と思うとがっかりしてしまう、一週間でも随分長い思いがすると書いてよこした。彼女は早くその手紙を出すことの出来なかった身の辺の種々な消息を書いた末に「早くお目に掛りとうございます」ともしてよこした。