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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

こうした書出しで、病人に読んで貰うためになるべく文句を手短かに手短かにと書いた。彼は唯今日まで嫂に隠して置いたその詫の心を書くだけに満足しようとした。短く、短くと、心掛けた手紙は夜の二時頃までも掛った。

翌朝岸本はそれを懐にして復た病院をさして出掛けた。丁度嫂の病室の方では節子が母親の側に附いているところへ行き合せた。節子の側で見る嫂は前の日に独りで見たよりもずっと病人らしい我儘を言う人で、そこに親子としての親しみもあらわれていた。前の日の病室の寂しさに引きかえ、窓の側に置いてある草花の鉢一つより外に眼につくものも無い灰色な部屋の中にあっては、つとめて眼立たない服装をして母を看護している節子の姿態が一層際立って女らしく見えた。

「へえ、節ちゃんは何か読んでるね」

と岸本は部屋の隅にある置戸棚の前に行って立って見た。母の看護のかたわら節子が病院で夜を送る時の心やりと見え、ルウソオの「懺悔」の訳本なぞが読みさしの枝折の入ったままその戸棚の上に置いてあった。

しばらく岸本はその病室で時を送った。医局の方に懇意な博士を訪ねて病人のことを頼みにも行って来た。