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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

遠く北海道の方に住む園子の生家の人達の耳にまでも伝わる時があるとしたら。直接に自分の行為に関係の無い人達のことを考えたばかりでもこの通りであった。その度に岸本は精神の勇気も挫けて、思い立ったことを中止しようとしたことも一度や二度ではなかった。嫂に宛てた手紙を書いた事は、この岸本から実際の動きを引出した。漸く彼は自分の意志から進むことが出来そうに成って来た。彼は種々な方面から自分の身に集って来る嘲笑を予期した。非難を予期した。場合によっては、社会的に葬らるるであろうということも予期した。その結果として、多年彼の携わっていた学芸の世界から退かなければ成らないようなことをも――

恐ろしく悲しい嵐の記憶がひしひしと岸本の胸に迫って来るように成った。「叔父さん、私をどうして下さいます」と言ったような過ぐる年の節子の思い屈した様子が、人知れず罪の意識に責められていた彼女のいたいたしさが、死体となって河岸へ流れ着いた妊娠した若い女を聯想させずには置かないような彼女の顔にあらわれて来た暗い影が――それらの記憶が復たありありと彼の眼前にちらついた。一度は自殺の瀬戸際にまで彼を追いやったのも、節子の顔にあらわれて来たあの恐ろしい「死」