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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

不思議な運命を考える度に、岸本はよく節子その人のことに思い当った。寂しい彼が生涯の途中に節子のような女のあらわれて来たということさえ彼には既に不思議であるばかりでなく、長いこと彼女の求めていたものを岸本に見出したという彼女の愛着の心もまた一つの不思議であった。もしも岸本が罪過の対象をもっと別の気質の人に見つけたとしたら、節子のように彼を憎むということも無いかわりに、節子のようにまた彼から離れがたく思うということも無いかも知れなかった。三年の旅の間も岸本を待ちつづけるようなことは節子として始めて見る女心だ。それが無ければ低気圧というものが再会した彼女に起っても来なかろうし、低気圧が彼女に起って来なければ或は岸本の方で二度と彼女に近づくことも無かったかも知れない。節子ゆえに、岸本はあれほどの苦悩を得たのだ。節子ゆえに、岸本はあれほどの哀憐を感じたのだ。罪過も、旅も、それからまた互に一生を託するような悲哀も――一切は実に節子その人を対象にして起って来たことだ。岸本は、あの病人の個性というものをよくも見究めずに唯病気のみを診断しようとする医者のような人達から一口に自分の行為を審かれることを非常に残念に思った。