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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
百十二
「どうせ人間の為ることだ」
と岸本はそこへ自分を投出すように言って見てはよく独りで嘆息した。
しかし岸本は自分の懺悔が発表される日を待って、義雄兄宛に手紙を書くつもりであった。自ら進んで兄の勘当をも受けよう、そして謹慎の意をあらわそう、そんなことを考えているところへ、思いがけない日に義雄兄が訪ねて来た。郷里の方で営んだという嫂の葬式を済ませ、やがて義雄は東京に帰って来ている頃であった。この兄は新規に起った節子の縁談を持って岸本の下宿へやって来た。
百十二
「や。どうも大分好い話だ。それに就いて妙なことがここに持上った」
と義雄は先ず節子の縁談のことを言出して、それから岸本の前に坐り直した。
節子の縁談は当然起って来べき時に向いていた。これまでとてもそういう話がちょいちょい無いではなかったが、その度に節子が堅く拒んで来たばかりでなく、娘を自分の側から手放したくないという嫂は大抵の場合に節子の方に荷担して縁談を成立たせなかった。その嫂もこの世に居なかったし、早く妹の身を堅めさせたいと心配する輝子も附いていたし、のみならず岸本が蔭になり日向になりして節子を生かそうとした骨折を知らない人から見たら、彼女は独りで置くには惜しいほど気力を回復した女であった。