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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

百十三

お前が仏蘭西に行って留守の間に、一度は見合の写真までうつさしたものだサ。一体言うと、お前が旅から帰らない中に彼女は嫁けてしまうつもりだった。何だか近頃の彼女の様子は、自分の産んだ子供のことでもしきりに聞きたがってるような風に見える。ホラ、例の一件で宜しく世話になった看護婦があったろう。あの看護婦も今は病院の助手で、時々俺の家へも訪ねて来るサ。どうも見るのに、節ちゃんがあの看護婦から何か子供のことでも引出そうとしているらしい。下手にそんな話を聞かされては、それこそ大変だ。禁物。禁物。それで俺はあの看護婦に堅くその話を封じて置いたが。まあ、台湾の兄貴でもこういう時に東京に家を持ってると、あの兄貴の家へ節ちゃんを預けてしまう。俺としては、それが上分別だ。何にしても、あの様子は危くて仕様が無い。昨夜の節ちゃんと来たら、どんな間違いを起すか知れないような風サ。考えて見ると、世の中のことは実もあり蓋もありさネ。去年台湾の兄貴が出て来た時にサ、兄貴が莫迦にお前のことを褒めて、捨吉だけは無難だ、彼だけはまあ兄弟中で一番安心だ、と言うじゃないか。その一番安心なお前が――これで兄貴も知らないようなことが有るんだからねえ。