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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
百十六
これは実際のことだと思って読むでしょうか。それとも作り話だと思うでしょうか」
「それは俺にも解らないサ。こういう人生もあると思って読んでくれる人もあるだろうサ」
「まあ、人の噂も七十五日ッて言いますから、今に何処かへ消えちまう時もまいりましょう――もうこんな話は止しましょう」
輝子は嘆息するように言って、襦袢の袖で涙を拭いた。この輝子の前に、岸本は自分の書いたものをよく読んで見てくれというより他の挨拶の仕様も無かった。
百十六
幾度か岸本は義雄兄に宛てた手紙を書こうとして、その度に筆を捨てては嘆息した。兄の心に背いても懺悔を公にしかけた彼は、どうしても黙って置く訳には行かなかった。一方にはその責を負い、一方にはしばらく兄に別れを告げるつもりで、机に対って紙をひろげて見た。とても彼はその書きにくい手紙に自分の思うことの十が一をも言いあらわすことは出来なかった。もともと自分は大兄をはじめ、亡くなった姉さんの御咎めを受けるつもりで遠い旅から帰って来たものである、それにも関らず平然として今日に到ったと書いた。かく御厚志に甘えることを次第に心苦しく思うように成った自分は、むしろ御咎めを受くるこそ自分の本意であると思い立ち、自分の為たことを皆の前に白状しようと決心したと書いた。