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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
義雄は輝子を使として、これを岸本の許へ持たせてよこした。いずれ返事をすると義雄の方から前触のあったのがこれだ。
輝子は父の封書を岸本の前に置いたまま、直ぐに座をはずした。彼女は離座敷の廊下の方へ起って行って、しばらく障子の外に立ちつくした。やがて岸本がその絶交状を読んでしまった頃を見計らって、復た彼女は叔父の居るところへ引返して来た。
「お前のお父さんのところからこういうものが来た」
岸本はそれを輝子に言って見せたぎりで、大判の奉書に兄自身筆を執って眼病後の人らしく大きく書いてある手紙を巻き納めた。
「叔父さんの親切にして下さるのが、反って節ちゃんには身の仇ですよ」
この輝子の言葉が岸本の沈思を破った。輝子はさも迷惑顔にそれを言ったが、岸本の方では別にその事について何も言おうとはしなかった。彼は自分で茶を入れて、使に来た輝子をねぎらうようにした。
輝子が帰って行った後、岸本は兄の書いたものを読み返した。その手紙の終に諷諭の意を寄せたらしく書き添えてある兄の三十一文字を繰返して見た。
「世の中の善きも悪しきも知れる身のなど踏み迷ふ人の正みち」
岸本は兄の非難と、長いこと自分の考え苦しんで来た心持とを思い比べた。