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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
「いや、そこが可笑しいと言うんだよ。同じ苦労するならばだナ、もっと大きなことの為に苦労するが可いじゃないか。もっと世の中のために成るとか、人間全体のために益になるとかサ」
「私もそう思わないじゃ有りません。しかし人間のためと言いましても、自分のすぐ隣に居る人から始めるより外に仕方がないと思ったんです。そこで私はどうかして節ちゃんを生かしたいとも考えるように成りましたし、子供も自分で育てて見る気に成ったんです」
「どうも、貴様のは随分曲りくねって来ているんだなあ……」
民助は笑い出した。やがて何か言い出そうとして、やや躊躇した後で、
「そこでだ――俺は今度、節ちゃんを台湾へ連れて行くつもりだ――どうだ、そっちの意見は」
この兄の言葉こそ岸本の待受けていたものであった。
「あ、そうですか、連れてって下さいますか。是非それは私からもお願いしたいと思っていたんです」と岸本は力を入れて答えた。
民助は眼を円くして弟の方を見た。遠い所へ節子を連れて行ってしまおうという自分の発議にどうして弟が嫌な顔もしないのか、とそれを意外に思うらしかった。
「や。そいつは難有い」と民助が言った。