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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
「繁ちゃん、父さんは独りじゃ起きられない。お前も一つ手伝っておくれ。父さんの頭を持上げて見ておくれ」
と岸本に言われて、繁は喜びながら両手を父の頭の下に差入れた。
「坊ちゃん、父さんを起してお進げなさい――ほんとに坊ちゃんは力があるから」
と婆やにまで言われて、繁は倒れた木の幹でも起すように父の体躯を背後の方から支えた。
「どっこいしょ」
と繁が力を入れて言った。岸本はこの幼少な子供の力を借りて漸くのことで身を起した。
「旦那さん、もう十一時でございますよ」と婆やはすこし呆れたように岸本の方を見て言った。
「や、どうも難有う。繁ちゃんの御蔭で漸く起きられた」
こう言いながら、岸本は悪い夢にでも襲われたように自分の周囲を見廻した。
太陽は昨日と同じように照っていた。町の響は昨日と同じように部屋の障子に伝わって来ていた。眼が覚めて見ると昨日と同じ心持が岸本には続いていた。昨日より吉いという日は別に来なかった。熱い茶を啜った後のいくらかハッキリとした心持で彼は自分の机に対って見た。
最近に筆を執り始めた草稿が岸本の机の上に置いてあった。それは自伝の一部とも言うべきものであった。