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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

これは外国行の旅行免状を下げて貰うに必要な手続きの一つであった。節子は勝手口に近い小座敷に立っていて、何となく彼女に起りつつある変化が食物の嗜好にまであらわれて来たことを心配顔に叔父に話した。

「婆やにそう言われましたよ。『まあ妙な物をお節ちゃんは食べて見たいんですねえ』ッて――梅干のようなものが頂きたくて仕方が無いんですもの」

こう節子は顔を紅めながら言った。彼女はまた、婆やに近くいて見られることを一番恐ろしく思うとも言った。

岸本はまだ二人の子供に何事も話し聞かせて無かった。幾度となく彼は自分の言出そうとすることが幼いものの胸を騒がせるであろうと考えた。その度に躊躇した。

「泉ちゃん、お出」

と岸本は夕飯の膳の側へ泉太を呼んだ。

「繁ちゃん、父さんがお出ッて」

と泉太はまた弟を呼んだ。

二人の子供は父の側に集った。旅を思い立つように成ってからは客も多く、岸本は家のものと一緒に夕飯の膳に就くことも出来ない時の方が多かった。

「父さんはお前達にお願いがあるがどうだね。近いうちに父さんは外国の方へ出掛けて行くが、お前達はおとなしくお留守居してくれるかね」

節子は膳の側に、婆やは勝手口に聞いているところで、岸本はそれを子供に言出した。