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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

一日も、一刻も、与えられた時を猶予することは出来ないかのように。仮令母の生命を奪ってまでも生きようとするようなその小さなものを実際人の力でどうすることも出来なかった。

死を思わせるほど悩ましい節子の様子から散々に脅かされた岸本は、今復た彼女から生れて来るものの力に踏みにじられるような心持でもって、時々節子をいたわりに行った。節子は娘らしく豊かな胸の上あたりを羽織で包んで見せ、張り満ちて来る力の制えがたさを叔父に告げた。彼女の恐怖、彼女の苦痛を分つものは叔父一人の外に無かった。

「御免下さいまし」

という親戚の女の声を表口の方に聞きつけたばかりでも、岸本は心配が先に立った。

根岸の姪――民助兄の総領娘にあたる愛子が引越間際の取込んだところへ訪ねて来た。輝子や節子が「根岸の姉さん」と呼んでいるのは、この愛子のことであった。愛子は岸本の許へ何よりの餞別の話を持って来てくれた。それは台湾の父とも相談の上、叔父の末の児(君子)を自分の妹として養って見たいというのであった。

「いろいろ父も御世話さまに成りましたし……それに叔父さんも外国の方へいらっしゃるようになれば、君ちゃんの仕送りをなさるのも大変でしょうと思いましてね……」