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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

唯一人の自分を神戸の宿屋に見つけた。彼は漸くのことでその港まで落ちのびることの出来た嵐の烈しさを想って見て、思わずホッと息を吐いた。

いかに節子の方から打消してよこそうとも、彼女の一生を過らせ、同時に拭いがたい汚点を自身の生涯に留めてしまったような、深い悔恨の念は岸本の胸を去るべくもなかった。その日まで彼が節子のために心配し、出来るだけ彼女をいたわり、留守中のことまで彼女のために考えて置いて来たというのは、どうかして彼女を破滅から救いたいと思うからであった。頑な心の彼は節子から言ってよこしたことに就いては、何事も答えまいと考えた。

四月に入って節子は母の上京を知らせてよこした。岸本は胸を震わせながらその手紙を読んで見て、彼女の母と祖母とまだ幼い弟とが無事に高輪へ着いたことを知った。節子の一人ある弟は丁度岸本の二番目の子供と同年ぐらいであった。郷里から家を畳んで出て来たそれらの家族を節子は品川の停車場まで迎えに行ったことを書いてよこした。母も年をとった、と彼女は書いてよこした。年老いた祖母や母を眼のあたりに見るにつけても自分は余程しっかりしなければ成らないと思うと書いてよこした。