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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

そしてまたこんな骨折が実際何の役に立つのだろうとさえ思わせた。下宿からシャトレエの橋の畔へ出るまでに彼の頭脳は好い加減にボンヤリしてしまった。

石で築きあげた高い堤について、河蒸汽を待つところへ降りた。中洲になったシテイの島に添うて別れて来る河の水は彼の眼にあった。岸本が訪ねて行こうとする仏蘭西人は巴里の国立図書館の書記で、彼はその人のお母さんから英語で書いた招きの手紙を貰った。その中にはルウブルで河蒸汽に乗ってビヨンクウルまで来るように、自分等の家は河蒸汽の着くところから直である、五分とは掛らない、河蒸汽にも種々あるからビヨンクウル行を気を着けよなぞと、細いことまで年とった女らしく親切に書いてあった。岸本はシャトレエから河蒸汽に乗って、復たルウブルで乗換えるほどの無駄をした。それほどまだ土地不案内であった。その時の彼は仏蘭西人の家庭を見ようとする最初の時であった。どうにでも入って行かれるような知らない人達の生活が彼の前にあった。彼は右することも、左することも出来た。そしてこれから先逢う人達によって右とも左とも旅の細道が別れて行ってしまうような不思議な心持が彼の胸の中を往来した。