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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

五十九

老婦人はその風呂敷の模様を見るさえめずらしそうに、

「へえ、お国の方ではそういうものを用いますか。面白い模様ですね。でもまあ日本の方にお目に掛って、姪の噂をするだけでも嬉しい。ああして姪が日本へ行ってしまったのは私が悪いのだ、私の落度だ、とそう皆が私のことを申すのです……可哀そうな娘……」

と言って、仏蘭西を捨てて出て行った姪を思いやるような眼付をした。やがて老婦人はその居間の壁に掛けてある日本の古画なぞを眺めながら岸本に言って見せた。

「日本というものは、私に取っては空想の郷でしたからね」

五十九

しばらく老婦人と話しているうちに岸本はその部屋の長い窓掛まで日本から渡来した古い金糸の繍のある布で造ってあるのに気がついた。瘠せぎすな身体に古雅な黒い仏蘭西風の衣裳を着けた老婦人は岸本に見せるものを探すために時々部屋の内を歩いたり、時には奥の方へ立って行ったりしたが、その部屋にあるものは何一つとして遠い異国に対する憧憬の心を語っていないものは無かった。こういう老婦人の姪に、異国趣味そのものとも言いたいマドマゼエルのような人が生れたのも決して不思議は無いと岸本は想って見た。