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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
叔父さんに別れた頃の季節が復た回って来たと書いてよこした。遠く行く叔父さんを見送った時の心持が復た自分に帰って来たと書いてよこした。この高輪の家の庭先に佇立んで品川の方に起る汽車の音を聞いた時のことまでしきりに思出されると書いてよこした。
岸本は自分の旅の心を昔の人の旅の歌に寄せて、故国の新聞への便りのはじに書きつけて送ったこともあった。節子はその古歌を引いて、同じ昔の人の詠んだ歌の文句をさながら彼女の遣瀬ない述懐のように手紙の中に書いてよこした。
「つきやあらぬ、
はるや昔の
はるならぬ、
わがみひとつは
もとのみにして」
先頃送った家中で撮った写真を叔父さんはどう見たろうとも彼女は書いてよこした。あの中に居る自分はまるで幽霊のように撮れて、ああした写真で叔父さんにお目に掛るのも恥かしいと書いてよこした。その事を母に話して叱られたと書いてよこした。彼女は浅草の家の方で使っていた婆やのことも書いてよこした。婆やは今でも時々訪ねて来てくれるが、自分は家にある雑誌なぞを貸与えて婆やの機嫌を取って置いたと書いてよこした。「婆やは可恐うございますからね」と書いてよこした。