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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
「今だから白状しますが、岸本君の詩集では随分僕も罪をつくりましたねえ。考えて見ると僕も不真面目でしたよ。君の詩をダシに使って、どれ程若い女を迷わしたか知れませんよ」
客の残して置いて行ったこの声はその人が居ない後になっても、まだ部屋の内に残っていた。岸本が若い時分に作った詩を幾つとなく暗誦したという客の顔はまだ岸本の眼前にあった。その人はそよそよとした心地の好い風が顔を撫でて通るような草原に寝そべって岸本の旧詩を吟じている若者を想像して見よとも言った。花でも摘もうとするような年若な女学生がよくその草原へ歩きに来ると想像して見よとも言った。風の持って行く吟声は容易に処女の心を捉えたとも言った。そしてその処女が何事も世間を知らないような良い身分の生れの人であればあるだけ、岸本の詩集が役に立ったとも言った。客が清しい、ほれぼれとするような声を有っていることは岸本もよく知っていた。この無邪気とも言えない、しかし子供のように噴飯したくなるような告白は岸本を驚かした。彼は全く自分と気質を異にした人の前に立って見たような気がしたのであった。
「しかし昔のような空想はだんだん無くなって行きますね。