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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

百

「君の国だって奇麗なところも有り、そうで無いところも有るでしょう――僕等の国もその通りでさ」

「日本の海はどんな色でしょう」と復た少年が訊いた。「黄色でしょうか」

「どうして君、青い色でさ――透明な青い色でさ――それは美しい海ですよ」

怜悧そうな少年の瞳に見入りながら岸本がそう答えると、少年はまだ見たことのない東洋の果を想像するかのように、

「透明な青い色か」と繰返した。

百

ある日、復た岸本は同じ橋の畔へ出た。黄ばんだプラタアヌの並木の葉は最早毎日のように落ちた。そこは仏蘭西国道の続いて来ているところで、橋に近い石垣の上からはヴィエンヌ河の両岸を望むことも出来、国道の並木の間にサン・テチエンヌ寺の石塔を望むことも出来るような位置にあった。何となく疲れが出て仕事も休もうと思うような日には、岸本の足はよくその橋の畔にある小さな珈琲店へ向いた。彼はそこで温めてくれる一杯の濃い珈琲を味いながら、往来の角に立つ石造りの水道栓の柱を眺め、水瓶を提げて集る婦女を眺め、その辺に腰掛けて編物する老婆の鄙びた風俗を眺めては、独りで時を送るのを楽みにした。白く斑に剥げたプラタアヌの太い幹の下あたりには、しきりと落葉を集め廻って遊んでいる子供の群も見えた。