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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

「なにしろ、捉えたら放さないんですもの――袖でも何でも切れちゃうんですもの」

「そうだったろうね。あの時分から見ると、繁ちゃんもいくらか物が分るように成って来たかナ」こう言う岸本の胸には、節子の姉がまだ新婚の旅に上らないで妹と一緒に子供等の世話をしていてくれたその年の夏のことが浮んで来た。二階に居て聞くと、階下で繁の泣声が聞える――輝子も、節子も、一人の小さなものを持余しているように聞える――その度に岸本は口唇を噛んで、二階から楼梯を駆下りて来て見ると、「どうして、あんたはそう聞分けがないの」と言って、輝子は子供と一緒に泣いてしまっている――節子は節子で、泣叫ぶ子供から隠れて、障子の影で自分も泣いている――何卒して子供を自然に育てたい、拳固の一つも食わせずに済むものならなるべくそんな手荒いことをせずに子供を育てたい、とそう岸本も思っても残酷な本能の力は怒なしに暴れ廻る子供を見ていられなくなる――「父さん、御免なさい、繁ちゃんはもう泣きませんから見てやって下さい」と子供の代りに詫びるように言う輝子の言葉を聞くまでは、岸本は心を休めることも出来ないのが常であった。