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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

七

子供が行って結婚前の島田に結った輝子に取縋る度に、「厭よ、厭よ、髪がこわれちまうじゃありませんか」と言ったあの輝子の言葉を岸本は胸に浮べた。「お嫁に行くんだ――やい、やい」と輝子の方に指さして言った悪戯盛りの繁の言葉を胸に浮べた。輝子が夫と一緒に遠い外国へ旅立つ前、別れを告げにその下座敷へ来た時、「それでも皆大きく成ったわねえ」と言って二人の子供をかわるがわる抱いたことを胸に浮べた。その時、節子が側に居て、「大きく成ったと言われるのがそんなに嬉しいの」と子供に言ったことを胸に浮べた。すべてこれらの過去った日の光景が前にあったことも後にあったことも一緒に混合って、稲妻のように岸本の胸を通過ぎた。

「一切は園子一人の死から起ったことだ」

岸本は腹の中でそれを言って見て、何となくがらんとした天井の下を眺め廻した。

七

母親なしにもどうにかこうにか成長して行く幼いものに就いての話は年少の子供のことから年長の子供のことに移って、岸本は節子や婆やを相手に兄の方の泉太の噂をしているところへ、丁度その泉太が屋外から入って来た。

「繁ちゃんは?」

いきなり泉太は庭口の障子の外からそれを訊いた。