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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
壁によせて積重ねてある古い本箱からは主として国学に関する書籍が出て来た。それを見て、彼は自分の父がどれ程あの古典派の学説に心を傾けたかを感知した。彼が英学を修め始めた時はまだ父は生きていて、非常に心配した手紙をくれたが、あの父の心持も思い当った。
その頃から彼は一層よく父を知ろうとするように成った。父に関したことは、いかなる小さな話でも心に留めて置こうとした。折ある毎に彼は身内のものや父を知っている人達に父のことを尋ねた。民助兄にも。義雄兄にも。田辺の小父にも。田辺のお婆さんにも。そして、それらの人達の記憶に残るきれぎれな話から父の生涯を想像しようとした。意外にも彼は人から聞いた話よりも、彼自身の内部に一層よく父を見つけて行った。彼は自分の内部から押出すようにして延びて来る生命の芽が、一切の物の色彩を変えて見せるような憂鬱な世界の方へ自分を連れて行く度に、特にそれを感じた。彼は年とれば年とる程、自分の性質が父に似て行くことを驚き恐れた。仙台の旅から帰ったのは彼が二十六歳の頃であった。彼は一夏を郷里の鈴木の姉の家に送って、あの姉の口から父の声を聞きつけたことも有った。