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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

百二十

彼の旅も、これから先の方針を定めねば成らないところまで行った。

百二十

「お客さん、お支度が出来ましてございます」

仏蘭西風の縞の前垂を掛けた下女が部屋の扉を開けて、岸本のところへ昼食の時を知らせに来た。下宿でも主婦の姪はリモオジュへ帰って、田舎出の下女が傭われて来ていた。

暗い廊下を通って、岸本は食堂の方へ行って見た。二年近い月日を旅で暮すうちに彼は古顔な客としての自分をその食堂に見た。

「さあ、どうぞ皆さんお席にお着き下さいまし」と肥った主婦は仏蘭西麺麭を切りながら言った。「私共は田舎料理で、ノルマンディからいらしったお客さまのお口には合いますかどうですか」

町の近くにあるヴャアル・ド・グラアスの陸軍病院に負傷した夫を見舞うためノルマンディの地方から出て来たという女の客、ある家庭の子供を教えに通っている中年の女教師、それらの人達が岸本の食堂で落合う顔揃であった。最早羅馬旧教のカレエムが始まっていた。毎年の例のように主婦が豚の腸詰なぞを祝う「肉食の火曜」も過ぎていた。四十日間の宗教季節が復たやって来たことは、仏蘭西で暮した月日の長さを岸本に思わせた。