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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
「岸本さん、お国からお便りがございますか。お子さん方も御変りもございませんか。さぞ父さんをお待ちでございましょう」
と主婦も一緒に食卓に就きながら言って、大きな皿に盛った精進日らしい手料理を順に客の前へ廻した。この主婦はノルマンディから来た女の客の巴里で買ったという帽子を褒め、家庭教師の新調した着物の好みを褒め、「まあ結構な」とか、「実にまあ御見事な」とか、褒められるだけ褒めた。リモオジュの田舎から出た人だけに、お料理から世辞まで山盛にしなければ承知しなかった。岸本はこの人達の世間話にも聞飽きて、費用のみ要る外国の旅のことを思いながら食った。食堂から自分の部屋へ戻って行って見ると、つくづく岸本には異人という心が浮んだ。そうそう長く留るべき場所では無し、又長く続けて行くべき境涯でも無いという気がして来た。自分のことをよく心配していてくれたビヨンクウルの老婦人のような温情のある人は亡くなった上に、時局は一層彼の旅を不自由にした。折角懇意になった仏蘭西人で国難のために夢中になっていないものは無かった。学問も、芸術も、殆ど一切休止の姿だ。彼の周囲には、戦争あるのみだ。