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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
「僕なぞが君、出掛けて行ったところでどうすることも出来ないじゃないか」
こう岸本は言ったものの、岡のことも心に掛って、呼びに来た牧野と一緒に下宿を出た。
二人はポオル・ロワイアルの並木街を歩いて行った。暮の降誕祭前に、仏蘭西政府がボルドオから移って来た頃あたりから、町々はいくらかずつの賑かさを増して来たが、しかしまだまだ淋しかった。戦争が各自の生活に浸潤して行く光景は、特に黒い喪服を着け黒い紗を長く垂下げて歩く婦人の多くなったことを取りたてて言うまでもなく、二人はそれを町で行き逢ういかなる人の姿にも読むことが出来た。汚れた顔の子供にも、荷馬車に石炭を積んで巨大な馬を駆って行く男にも、子供の手を引き腰掛椅子を小脇に擁えながら公園の方へ通う乳母にも、鳥打帽子を冠った年若な労働者にも、小犬を連れたお婆さんにも、赤い花や桜の実の飾りのついた帽子を冠り莫迦に踵の隆い靴を穿き人の眼につく風俗をしてその日の糧を探し顔な婦人にも。
天文台前の広場まで行くと、二人は十七八歳ばかりの青年の一群にも遭遇った。それらの青年は皆学生であった。普通の服に革帯を締め、腕章を着け、脚絆を巻きつけ、銃を肩にし、列をつくって、兵式の訓練を受けるためにルュキサンブウルの公園の方へ行くところであった。