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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
二
一日かかって何通となく書くことはめずらしくない。その意味から言えば、彼の前に披げてあったものは、めったに友人から貰うことの出来る手紙でもなかった。手紙の形式をかりて書いて寄してくれた手紙でない手紙だ。読んで行くうちに、彼は何よりも先ず人生の半ばに行き着いた人一人としての友人の生活のすがたに、その告白に、ひどく胸を打たれた。ある夕方が来て見ると、あだかも彼方の木に集り是方の木に集りして飛び騒いでいた小鳥の群が、一羽黙り、二羽黙り、がやがやとした楽しい鳴声が何時の間にか沈まって行ったように、丁度そうした夕方が岸本の周囲へも来た。中にも、この手紙をくれた友人が中野の方へ新しい家を造って引移ってからというものは、ずっと声を潜めてしまった。ほんとに黙ってしまった。
読みかけた手紙を前に置いて、岸本は十四五年このかた変ることのない敬愛の情を寄せたこの友人に自分の生涯を比べて見た。
二
岸本は更に読みつづけた。
「……郊外に居を移してから僕の宗教的情調は稍深くなって来た。僕の仏教は勿論僕の身体を薫染した仏教的気分に過ぎないのである。僕は涅槃に到達するよりも涅槃に迷いたい方である。