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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

百二十五

「物の解った人が側に附いていながらこういう結果に成ったかと思うと、そればかりが僕には残念なんです」

岡はそれを言った。

「岡君と僕の場合とを比べることも出来ないが――第一、岡君から見ると僕はずっと年も若かったし、境遇も違っていました。でも、互いに心を許したという点だけでは似てるかと思う。僕は死をもって争った。それでも行く人をどうすることも出来なかった。僕は自分の方から別離を告げましたよ――尤も僕の場合には、先方に許婚の人がありましたがね」

岸本は平素めったに口にしたためしも無いようなことを皆の前に言出した。

百二十五

岸本はこの仏蘭西の旅に上って来た時、神戸の旅館で思いがけなく訪ねて来てくれた二人の婦人に邂逅ったことを忘れずにいる。二十年の月日を置いて逢って見たあの人達はもう四十を越した婦人でも、二十年前に亡くなった人は何時までも同じ若さの女として岸本の胸に残っている。彼が岡や小竹を前に置いて思わず言出したのは、あの神戸で邂逅った婦人等の旧い学友にあたる勝子のことであった。青木、市川、菅、足立――それらの友人と互いに青春を競い合うような年頃に、岸本はあの勝子に逢った。