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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
何だか髭を取ってしまったら、凄味が出て来た」と言って笑うものがあった。「まあどうなすったんですか。ほんとに、吃驚してしまいましたよ。そんなことを言っちゃ悪いけれども、岸本さんは気でも狂ったんじゃないかとそう思いましたよ」と言うものもあった。「惜しいことをした。矢張君には髭が有った方が好い。国へ帰るまでには是非生して行き給え」と言って忠告してくれる人もあった。
「岸本さん、髭が無くなりましたね。何かそれには意味が有るんですか」
同じ旅館に泊っている留学生が小旅行から戻って来て、それを岸本に尋ねた。この人は慶応出で岸本から見るとずっと年少ではあったが、何かにつけて彼の力になってくれた。
「昔、岸本さんは坊主にお成んなすったとか――」と復たその留学生が男らしい眉をあげて、岸本の方を強く見て言った。「何かそれと同じような意味でもあるんですかね」
さすがに、この人の言うことは鋭かった。岸本は返事に窮って、
「自分の髪の白くなったのは鏡にでも向わなければ分りませんが、髭の白いのは見えて、心細くて仕様がありません。もう一度書生の昔に復ろう。そう思って、君の留守に剃ってしまいましたよ――」