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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

その後戦争が始まってから植物園に近い教授の住居を訪ねた時、岸本の方からその事を言出して見ると、教授は仏蘭西人の癖らしく肩を動って、「この戦争では何もかも滅茶々々です」と言ったことを思い出した。

折角遠いところから持って来た種子もどうなってしまったか。それを思い出すと、異郷の土ともなり得ずに国をさして戻って行こうとする自分の旅のことが一緒に成って岸本の胸の中を往来した。東洋の果からやって来た彼のような人間は何処まで行っても所謂異国の人で、結局この土地の人達の生活には入り得なかったのだ。自分等は芸術に行くの外は無い、それによってこの土地の人達の生活に触れるの外は無い、こういう考えを彼はこの仏蘭西の旅の最初から起したが、彼のように書籍と睨めっくらばかりしていて土地の婦人にも近づかないでは、どう知らない人達の中へ行きようも無かった。女から入るということが一番自然な道だ、と彼に話し聞かせたある旅行者もあった。それには彼はあまりに自分を責め過ぎていた。あまりに自分の姪のことで深傷を負い過ぎていた。

八

しかし、もう一度結婚ということの方へ岸本の心を向けさせたのもこの異郷の旅であった。