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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

まだ彼は半分海に居るような気もする。もし上陸して遭遇う最初の日本人があったなら、知る知らぬに関らずその人に齧り着いて見たいような、そんな心持で帰って来たばかりの自分のような気もして来る。すくなくも彼がこの港をさして遠く帰って来た思郷の念は、あの長期の航海を続ける船乗の心に似たものであった。陸の上に仆れ伏し、懐しい土に接吻したいとさえ思うというあの船乗の心は全く彼の心に近いものであった。

「漸く。漸く」

と彼は言って、互に真黒に日に焼けて来た牧野と顔を見合せた。

夕刊の出る頃になると、牧野や岸本の無事に仏蘭西から帰国したということが宿の内儀の持って来て見せた新聞にも載せてあった。先刻この二階で話したと思うようなことが最早活字になって来た。面白そうな見出しで、多忙しく書かれた文章で。岸本は自分のことの出ているその新聞を自分で読んで見た。どんな苦い顔をしてあの義雄兄がこうした記事を読むだろう、という想像が一番先に彼の頭脳へ来た。その新聞には、牧野と二人並んだ写真も出ていた。税関の裏手の空地で二人がこの港に着くか着かないにある技師の早取写真に納められたのが、それだ。