轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

十六

それは婦人を侮辱するようなものだ。この考えはすくなからず彼を躊躇させた。何しろ彼はまだ旅から帰ったばかりで、今少し時の余裕を欲しいと思い、相手の婦人を知ることの出来るような自然な機会をも得たいと思った。彼は牧野にこの事を話して、結局その訪問を思い止った。大阪の宿では彼は一日客と話し暮した。牧野と一緒に夏の夜の賑かな町々をも歩いて見た。明るい燈火のかげを歩き廻る時の彼の心は、どうかするとまだ巴里の大並木街の方へも行き、帰りの旅に見て来た阿弗利加の殖民地の港の方へも行った。

十六

大阪から直ぐに東京へ向おうとしていた牧野と、京都の方に巴里馴染の千村や高瀬を訪ねながら東京へ帰って行こうとしていた岸本とは、道頓堀の宿で別れた。一日も早く牧野は東京に入ろうとしていたし、岸本はまた一日でも遅く東京に入ろうとしていた。東京の方に近づけば近づくほど、岸本の足は進まなかった。

「岸本さん、一緒に東京へ入ろうじゃありませんか」

別れ際に牧野がそれを言って勧めたが、岸本の方では再会を約して置いて手を分った。何故久し振で東京を見る彼の足がそれほど進まないのか、何故一切の人の出迎えなぞを受けずに独りで寂しく東京へ入ろうとしているのか、その彼の心持は七十日の余も帰国の旅を共にした牧野にさえ言えないことであった。