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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
二十
根岸の姪(岸本が長兄の娘)の夫にあたる人は、義雄兄からの電報が行くと直ぐに岸本に逢いに来てくれた。岸本はこの義理ある甥と旧の新橋停車場で別れたぎりの顔を合せた。
「捨叔父さんも御無事にお帰りで――」
こう言って挨拶する親戚の前では、義雄は弟の遠い旅に行った動機なぞを小欠にも出すまいとする風であった。のみならず「弟が」と言っても済むところをわざと「岸本捨吉が」と言って、品川からしょんぼり着いたような弟のことを晴の帰朝者として取扱おうとした。それほど義雄の気質には一門の名誉とか外聞とかいうことを重く視るところがあった。
「叔父さん、まあ洋服でもお脱ぎなすって――ここに浴衣も出してありますから」
と嫂が言った。この嫂は岸本のことを呼ぶには一郎や次郎と同じように「叔父さん」と呼ぶ場合の方が多かった。その時になって岸本は漸く旅人の姿でなくなった。
「旅のお話でも一つ伺いましょうか――」
と祖母さんも奥の部屋へ来て皆と一緒になった。
「祖母さんはお達者なようですね」
と岸本が言うと、義雄はそれを引取って、
「家中で祖母さんが一番丈夫だ」この兄の言葉は何となく岸本の耳に強く響いた。