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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

「節ちゃん、手はどうです」

「あれの手はもう三年越しよなし」

と祖母さんは郷里の方の訛を出して言った。節子は黙し勝ちに、水虫のようなものを煩いつづけている自分の掌を叔父の方へ見せ、自分でもその掌を眺めていた。

「まだそんなに悪いのかね。もう疾くに良くなってることかと思っていた」と言って、岸本は嫂の方を見て、「なんでも巴里の方に居る時分に好い皮膚病の薬が見つかりましてね、それを節ちゃんのところへ送ってよこすつもりでした。丁度子供のところへも町の文房具屋で見つけた帳面がありましたから、一ちゃんに一冊、泉ちゃんや繁ちゃんにも一冊ずつ、それにその薬と、それだけを一緒にして国の方へ帰る友達に頼みました。どうでしょう、その友達の荷物は船と一緒に地中海へ沈んでしまいましたよ。敵の船にやられたんですね。友達だけは別の船で日本へ着きましたが、折角の帳面も薬もそんな訳で皆のところへ届きませんでした――惜しいことをしましたっけ」

こんな旅の話をするにしても、岸本はそれを節子にしないで、嫂や祖母さんに聞かせるようにした。岸本は節子と自分の関係を叔父姪の普通の位置に引戻そうとした。